コンコン……。
常務室の扉をノックすると、中からはいつもの常務の“どうぞー”という声が聞こえて。
私はそれを、ゆっくりと引いて開ける。
「佐々木です。失礼します」
「お~、佐々木君! 忙しいのに呼び出してすまないねぇ」
「いえ。どうされましたか?」
目の前の常務は、優しそうな小太りのオジサマ。
まん丸なお腹には、絶対に何かが隠されていると思うんだけど……。
彼はそこを両手でポンポンと叩きながら、私を見上げてニッコリと笑う。
「実は、君にお願いしたい仕事があってね」
「はい。……何でしょうか」
「急なんだが、来月から1年間、アメリカに研修に行くつもりはないか?」
「……え?」
まさかそんな話だとは思ってもみなかったから、突然のその話に呆気に取られる私は、上手く言葉を繋げられない。
「まぁ、とりあえず話だけでも聞いていきなさい」
私の動揺をあらかた予想していたのか、笑顔を崩さない常務に、それがどんな研修なのか大まかに説明されたけど……。
当然、実感も湧かない。
「いやいや、わかっているよ! 急な話だから悩むと思うが、いい機会だと思うんだ」
「……ですがっ」
私は――……
航太と離れたくない。
せっかくのチャンスに、こんな私情を持ち込むなんて、大人げないと思われるかもしれないけど、それくらい航太は、私にとって大きな存在で……。
「とにかく、返事は来週まで待つから!! 行くのであれば、急だがその次の週からお願いしたい。返事を急かすようで悪いが、よろしく頼むよ!」
そう言うと、常務は“話は終わった!”と言わんばかりに再び自分の仕事に戻ったのだった。

