トコトコと、そのスーツの男の人の後ろをついて歩く。
「……」
「……」
当然ながら、話すことなんて何もなくて、やや気まずい。
「失礼ですが――……」
その沈黙を破ったのは、目の前を歩く“スーツの男”だった。
「あっ! はっ、はい!!」
急に話しかけられて、驚いて大きな声を出してしまった私を、一瞬目を大きくして見たその人は、にっこりと笑って話を続けた。
「実は、もういらっしゃらないのかと思って、心配していたんです」
「え? 心配、ですか?」
「はい。航太から……昨日の夜、急に席を1つ準備しておいて欲しい、と電話を貰いまして」
「そう……なんですか?」
“航太”と彼のことを呼ぶ目の前の人は、何故かとても嬉しそうにその目を細め、ふわりと微笑んだ。
「ええ。なんでも、ゴール裏の1番いい席を用意して欲しいと」
「はっ!?」
素っ頓狂な声を上げる、私の様子を気に留める様子もなく、スーツの男の人は、なおも話を続ける。
「妙に張り切っていたので、きっとゴールを決めた瞬間を見せたいようなお相手なのだろうと思って……」
「……」
「楽しみにしながら、お待ちしておりました」
――ん?
ゴー……ル?
「えっと、すみません。宮崎航太は……」
「はい」
「コーチか何かなんですよね?」
「……」
え? なに!?
何の沈黙!?
スーツの男の人が“ビックリしました”全開な顔で、私を見つめながら固まっているから、変なことを言ってしまったのかと思わず焦る。
「あの、えっ? 違うんですか?」
慌てた私を尻目に、スーツの男は……
「――っ! あはははははははっ!!!!」
何故か、大笑いをした。

