「なに唸ってんの?」
「……っ!!」
多分そんなに時間は経っていないはずなのに、気付くと後ろにはTシャツにジャージ姿の航太が立っていて、怪訝な顔を向けていた。
「は、早いね!!」
私が、慌てて起き上がり、ソファーの上に座り直してそう言うと、
「そうか~?」
航太は呑気なセリフを口にして、頭にかけたタオルでガシガシと髪を拭いた。
ドクン――……。
いつもと違う彼の姿に、心臓がまた騒ぎ出す。
「それ、まだ飲む?」
そう言って、さっき私が出したミネラルウォーターを指差した航太。
「あ……、もういいかも」
「んじゃ、ちょうだい」
私からそれを受け取ると、一気に飲み干し、“ふー……”と、小さく息を吐き出した。
「あ~、悪い。ドライヤーとか欲しいよな?」
「ううん、大丈夫! 結んじゃえば全然」
「悪い。そこまで気ぃ回らなかった」
「平気! いつもそんなに真面目に乾かさないし!……それよりさ、」
「ん~?」
実は、さっきパニックに陥りながらも、気になった物が一つあって……。
首を傾げた航太を置き去りにして、ソファーから立ち上がった私は、窓辺に近づいて、ある場所を指差した。
「あそこ! 観覧車見えるの!!」
指の先には、小さく光る観覧車の灯り。
「おー、ホントだ! 全然知らなかった……」
そう言った航太は、きっと本当に疲れてここに帰ってきて、お風呂に入って寝るだけの生活をしているのかもしれないと思った。
それだったら――……。
「いつか、一緒に乗りたいね!」
そんな生活に少し行き詰った時、私が傍にいて、彼のために何かができたら嬉しいのに。
「あっ!! 時間ができたらね! 10年後でも、20年後でも!」
前に“サッカーばっかりでどこにも連れて行ってやれない”そう言ってくれた航太の言葉を思い出して、航太が気にしないように、そう付け加えて笑った。

