「ちが、」 「そんなことしたら、あいつは練習ほっぽりだしてあんたのこと探しに行かねないからな。」 慶睡に似た口調のうえ、正論だから言葉に詰まる。そして、また後退し始めた。どうやら観客席に後戻りすることになるらしい。 ずるずる、と引きずられていると、後ろで扉がバタンと開く音がした。 「お。」 周防くんの友達が声をあげる。 「蒔田、この前見た彼女見なかったか?」 知ってるどころじゃない、もう聞けば体が反応する。 …でも、周防くんはこの状態をどう思うんだろう。