この高校には不思議な噂が流れている。


『触った物が凍ってしまう』という、何とも非現実的すぎるファンタジーにでもありそうな内容のものだ。


その噂は氷澪 零(ひみお れい)という、いつも冷静、冷淡、冷酷、その名前からきた。


そしてその非現実的な噂を一年の二学期が始まったばかりの今、初めて聞いた、火稲 陽(ひいな よう)は眉をしかめる。

彼とは全くの正反対の名前だ。


「ねぇー、よーきーてるー?」


可愛く語尾を伸ばす彼女は中学からの陽の親友、雛野 燕(ひなの つばめ)。

長い黒髪をツインテールにしている高校生とは言い難い、幼い女の子である。


「ダメだよ、燕(つばめ)。今陽は二次元の世界に入っているから声をかけても無駄さ」


そして、そんな燕に朝っぱらから抱きついているのが燕の彼氏…もとい、赤羽 蒼真(あかばね そうま)。


俗にいうイケメンなのだがちょっとオタクが入っているのか、こういうことを恥ずかしがらずにさらっと言ってしまう所が玉に傷だ。


燕のどこに惚れたのかを聞くと必ず第一に「ツインテール」と答える馬鹿でもある。


そしてもう一人、陽にとって厄介なのがいる。


「はよ、ツバメ、ソウマ、…と、ヨウ」


それが彼、滝川 太陽(たきがわ たいよう)である。