青く照らされる、薄暗い場所
「ねぁ、何見てるの?」
「ん、見てよコレ」
「なにこれ、海藻?」
「どちらかと言うと藻」
なにもない、
小さな誰も見ないような水槽を
食い入るように見つめる背の高い人。
「水族館まで来て、藻?」
「これ、なかなか珍しい種類なんだ」
「ふぅん、好きだねえ」
「うん、好きなんだよ」
「カイヨウなんとかかんとかが?」
「海洋分子微生物学ね」
「わかんないよ」
「僕には夏目漱石だか芥川龍之介なんかの方が
よっぽどわかんないね。君はすごいよ」
「ふふ、ねえ、サメ見に行こう」
「しょうがないな。はい、手」
「うん」
人の少ない平日
手を繋いで、
青のトンネルを抜けてゆく
大きな手にあるその確かなぬくもり。
