ライフ・フロム・ゼロ


鞄を膝に載せたまま、
一気にグラスの半分
ほどのコーヒーを飲み、
息を吐いた。

「すみません、ここいいですか?」

「はい!?」


突然声をかけられて、
変な声で返事をしてしまった。

見上げると、背の高い若い男が
トレイを持ったまま隣の席に立っている。

「あ…はい」

他に空いてる席もあるのに。

派手な色に髪を染めたその男は、
私の苦手なタイプだった。

顔立ちは綺麗だけれど、
なんというか「ちゃらい」。


早く残りのコーヒーを飲んで席を立とう。


「あの」


またも話しかけられる。


「え?」


「いや、すみません話かけちゃって」


「………」


「あの」


「え?」


「俺、ケイって名前なんですけどお姉さんは?」


「樋口です…」


しまった。なぜかばか正直に応えてしまった。