彼に会えたことで心身共にリラックス出来、いいメロディーが浮かびそう。義人さんには失礼と思いながらも、私は席を立って地下にある作業場で再び作曲活動に時間を費やす。



「出来たー!」

 それから完成の声を上げたのは三時間ほど経ってからのことだった。メンバーやプロデューサーには曲が完成したことをメールで知らせておく。出来立てホヤホヤの新曲を添えて。これからアレンジを加えて、レコーディングやミックスダウン、マスタリング、その全てをメンバー同士で確認し合いながら少しずつ作業を進めてゆく。ピリピリと緊迫した空気になるだろう。PV撮影やジャケット撮影まであるので多忙極まりない。

 一息つく為、二階へ上がってリビングへと顔を覗かせる。当たり前だが、そこに義人さんの姿はなく、代わりに置き手紙が残されていた。

[集中しているようだから帰るね。Happy Birthday]

 達筆な字でそう書かれていた。

 冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出し、それを口に流し込む。先ほどまで少し眠気があったが、おかげで目が覚めた。まあ、後は寝るだけなので眠気があろうがなかろうが、特に問題ないのだが、いつもの癖で飲んでしまった。とりあえず、空になったカップとお皿を片付けてから寝室へ行く。すぐには眠れないのでベットに備え付けてあるヘッドライトをつけ、本を読む。プレゼントに貰ったオルゴールを鳴らしながら…。

     2

 翌日、私は早速出来立てホヤホヤの新曲を聴いてもらう為にメンバーとプロデューサーに夕方、赤坂の家に集まってもらった。昨日メールと一緒に新曲を添えていたので皆からの承諾は得ていたのだが、やはり生の声が聞きたかったのでこうして集まってもらった。

<♪♪〜♪〜♪>

 自分なりにいい曲に仕上がったとは思うが、それが万人受けするとは限らない。それを狙って作ったわけじゃないのだから。狙ったとしてもそう簡単に作れはしないが。

「…ふ〜、毎回泣かせてくれるね。昨日、メールでも言ったけどこりゃミリオンいくんじゃない?」

 メンバーからユウちゃん、という愛称で呼ばれ、親しまれている名ばかりのプロデューサー、石垣 悠。推定五十五歳。若かりし頃はヴィジュアル系ロックバンドのヴォーカリストとして一世を風靡したらしいが、今ではそんな面影、微塵もない。全体的にふっくらとした体型のたぬき親父だ。

「待たせるだけあるな」
「…悪かったわね、待たせて。空」