入院中私は一度も雅紀に会っていなかった。

メールも電話もしなかった。

現実問題として病室は携帯使用不可だったし。
これ以上惑わせたくはなかった。

雅紀は大検を1週間後に控えていた。それなのにあんな騒動に巻き込んでしまった。

どうしてるかな? 大丈夫かな?

雅紀からも連絡はなかった。


=1ヶ月後=

盛夏の終わりを告げるうろこ雲が真っ青な空に広がっている。

私はようやく首に出来た痣やムチウチのような症状が楽になって、受けることの出来なかった前期試験を追試という形でなんとか終えたところだった。

FMから流れるラブバラード

映画の挿入歌だったっけ?

せつない歌声が胸に響く。

まあちゃん、無事に大検合格しましたか?
あなたに会いたいです…。ってそんなこという資格なんてないか。

そんなことをぼーっと考えていたら携帯が鳴った。

♪プルルル♪

「もしもし 久しぶり。俺、雅紀。長い間連絡できなくてごめん」

「う~うん、それより元気にしてた?」

「元気?ってそれ俺のセリフ。体調どう?」

「もう大丈夫。迷惑かけてごめんね」

なんだか上手く言葉がつながらない。

「もし瀬名の体調がいいんだったらさ、瀬名んちまで迎えに行くからちょっと会えない?」

「うん!大丈夫だよ。駅前まで出るよ。私の家の近くじゃお茶するカフェもないから」

「了解!じゃあ近くなったら電話するね」

私は急いで出かける準備をした。