彼と彼女と彼の事情



「もしかして、また兄貴か?」



あれだけ話を聞いてほしかったはずなのに……   


何も、口にできない。  


ただ、ただ、涙が止まらなくて……。



「奈緒、ここじゃ落ち着かないからちょっと動こう」


と、郁人に肩を抱かれ、新宿の喧騒の中を二人で歩き出した。