…本当に忘れてしまったんだ。
「春佳だよ。」
彼に、名前を名乗るなんて少し変な感じがする。
彼は暫く私の顔を食い入るように見た後、微かに声を震わせながらも
「ぼ…僕は…No.1352」
と、小さく告げた。
名前すら覚えていない……か。
とりあえず、何故いるのかを聞きたかった。
予想はついているけれど、あくまで予想だ。
事実ではない。
「そう。それで…何かあったの?」
彼の、あの穏やかな笑みと同じように微笑みを浮かべて問い掛けた。
彼のかわりに、私が微笑んでいよう。
どちらかが微笑んでいれば、きっと雰囲気が変わるから。


