【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「保健室に行くか、如月?」


気遣わしげに問う体育教師に、優花は否と、頭を振った。


「あ、大丈夫です。少し休んでいれば平気です」


今は、一人でいたくない。


もしまた、あの夢に落ちてしまったら――。


胸をよぎるのは、映画のような夢を見ることへの、ドキドキワクワクするような期待感ではなく、言いようのない不安感。


あの夢の続きは、見たくない。


怖い。


あの夢は、怖いから、嫌だ。


「そうか? 無理をするなよ」


「はい」


幾分、青ざめた表情で、それでも笑みを浮かべると、優花は再び始まるバレーの試合を見学するべく、体育館の隅の壁際へと足を向けた。