【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~



声だけを聞いていた時、きっと優しい人なんだろうと思っていた鈴木博士は、想像通りの人だった。


鈴木始《スズキ ハジメ》。三十八歳。


勤務医ではなく、研究をするのが仕事の、医学博士だそう。


それで晃一郎が、『先生』ではなく『博士』と呼んでいたのだ。


ちなみに、優花が今いる場所も、病院ではなく研究施設なのだとか。


鈴木博士は、ひょろりと背が高くて、細身のキリンを思わせる穏やかな風貌の持ち主で、


理知的で落ち着いた大人の雰囲気と、少年めいたメガネの奥の黒い瞳が印象的な、とても素敵な人だった。


どこかの、本能丸出しの狼くんとは、雲泥の差だ。


その狼くんも、キリン博士には頭が上がらないのか、


「じゃ御堂君、優花ちゃんを、ベッドに寝かせてあげてくれるかな」


と、ニッコリ笑顔で博士に指示されても、文句を言うでもなく、


素直に「はい」と真面目くさった顔で答えると、晃一郎は、優花をベッドに横たえた。