「丸わかりで悪かったわね。いいかげん、とっととベッドに戻してよっ」
「イヤだー」
「イヤだー、じゃないっ!」
語尾を伸ばすな、語尾を!
と、見た目は熱い抱擁を交わす恋人どうし、実際は只今絶賛決闘中な二人の飽くなき戦いに終止符を打ってくれたのは、突然上がったノック音だった。
スライドドアの向こうからペタペタサンダル履きで現れた痩せぎすの、メガネをかけた白衣姿の男性が、ニコニコ邪気のないエンジェル・スマイルで歩み寄ってくるのを呆然と見つめながら、
まるでイタズラを見つかった子供みたいに、晃一郎と二人、同時にピキリと身を強張らす。
年のころは、おそらく四十代そこそこ。
「ずいぶん楽しそうだね。お邪魔してすまないが、診察をさせてもらえるかな?」
穏やかなその声は、夢うつつの中で聞いた命の恩人、『鈴木博士』のものだった。



