【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


『優花、頼む、落ち着いて聞いてくれ』


「知らないってばっ!」


耳を押さえても遮ることなどできないって、『分かっている』


それでも、優花は両手で両耳をふさいで、ここから逃れようと立ち上がった。


勢いよく地面に落ちてバウンドしたペットボトルが、コロコロと足元を転がり、離れていく。


――だめだ。


ここに居たら、だめ。


晃一郎の強い眼差しを、全身に感じながら、


身を屈めて手さぐりでカバンを掴み、膨れ上がって溢れだしそうな不安を抑え込むように、ギュッと胸に抱え込んだ。


「ごめん、私、先に帰るねっ!」


そう言い捨てて数歩後ずさった次の瞬間、


「優花っ!」


晃一郎の鋭く呼ぶ声が、耳を叩いた正にその時。


思いもよらない強い力で体が前にグイッと引かれ、優花はそのまま、晃一郎の懐に抱え込まれてしまった。