【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


何だか怖い。


ここから先に踏み込んだら、二度と戻れないかもしれない。


背筋を這い上がってくるのは、そんな未知の領域に足を踏み入れるような、恐怖感。


このまま、この場所から逃げ出したい衝動を、ペットボトルをギュッと握りしめてどうにかこらえる。


「……なあ、優花」


ため息交じりのつぶやきが落とされ、


いつの間にか、自分も手にしていたペットボトル入りのお茶を、晃一郎はぐびっと一口口に含んで、遠くを見るように目を眇めた。


「う、……うん?」


「お前、記憶が少し、戻っているんだろう?」


静かな声だった。


怒っているでもなく、咎めるでもなく、


でも、


静かに落とされた声には、否を言わせないような厳しさがあった。