【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


人間、お腹がいっぱいになると、とたんに平和主義者になるみたいで、


さっきまで、なんて言って晃一郎を問い詰めようか息巻いて考えていたのに、すっかりそんな気持ちが薄らいでしまった。


――ああ、私って、つくづく日和見。


お弁当を完食し終えて満腹になった優花は、温かい日差しを頬に当てながら、『自販機でお茶でも買ってくるんだったなぁ』と、のんびりと考えていた。


確か公園の入口にあった気がするけど、戻って買ってこようかなぁ? 


なんて思っていたら、まるでそれを読んだみたいなジャスト・タイミングで、膝の上にペットボトルのお茶がポンと投げ落とされて、ギクリと固まった。


「ほら、お茶」


「え……?」


あっけにとられて手に取ると、まだ充分に温かい。


――今、晃ちゃん、このお茶をどこから出したの?


ずっと手を引かれていたんだから、途中で買ったんじゃないことは分かってる。


これじゃ、まだ温かいお茶が、『どこからか突然湧いて出た』としか思えない。


言葉にできない疑惑が不安を増殖させていく。