【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


これだけ人を、不安のどん底に陥れておいて、呑気に弁当を食べようなんてっ!


と、何か文句を言おうとしたとき、


『ぎゅるるるるっ』と、隠しようがない大音量のお腹の虫が、お鳴きになった。


「ほら、優花の腹の虫も、おばあちゃんの愛情弁当を食べたいってさ。んじゃ、ありがたくいただきまーす!」


晃一郎が弁当箱の蓋を、パカンと開けた瞬間。


ふわっと広がった、『おばあちゃん特製の甘い卵焼き』の、何とも言えない良い匂いが、更にお腹の虫を刺激する。


「ううっ……」


――悔しいけど、言い返せない自分が悲しい。


こういう状況で、晃一郎と二人で、のんびりランチタイムと言うのも、我ながらどうかと思うが、


やっぱり空きっ腹には勝てず、別にお弁当には何の罪もないわけで、


結局、傍目には仲の良いカップルよろしく、二人並んでまったりなランチ・タイムが始まった。