【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「突っ立ってないで、いくぞ」


ツン、と晃一郎に手を引かれて、機械的に歩き出す。


ここでは、晃一郎も足を速めることはなく、優花はようやく自分のペースで歩くことができて、周りの景色を見る余裕が生まれた。


澄んだ青空の下、


だいぶ秋めいて色付き始めた広葉樹林と深い色合いの針葉樹林の間を、くねくねと伸びている赤茶のレンガ敷きの歩道を、ゆっくりと進んでいく。


ユラユラと風にそよぐ、道際に咲いている色とりどりのコスモス。


秋の午後の日差しはとても穏やかで、優しくて。


たまに、楽しそうに歩く幼い子供連れの家族とすれ違ったりすると、『ああ、平和だなぁ』とか、なごんだりして。


こんな訳の分からない状況でなければ、どんなにか良いのにって思う。


それにしても、


――晃ちゃんは、どうしてここに私を連れて来たの?


優花の手を引き、少し前を歩く横顔からは、晃一郎が何を考えているのか、全然読み取れない。