「急いでいるのは、時間がないから。バスには乗らない。行先は、行ってのお楽しみ」
息一つ乱れていない涼しい表情で、きっちり質問に答えた晃一郎は、再び優花の手を引き、歩き出す。
「行ってのお楽しみって、ちょっと!」
あまりに理解不能な状況と酸欠で、脳細胞がうまく働かない。
訳も分からず手を引かれ、駅で電車に乗り、更に乗り換えて。
どれくらい経ったのかと腕時計を見てみれば、すでに午後二時。
すっかり抗う気力が無くなった優花が連れてこられたのは、川べりに沿って作られた大きな自然公園だった。
「ここは……?」
駅からの直通バスに乗って、その場所に降り立った時、不思議な感覚にとらわれた。
県境にある、観光スポットでもあるこの森林公園の存在は、もちろん知っている。
でも、優花はまだ一度も訪れたことが無い……、はずなのに。
なぜか、『懐かしい』と感じた。



