【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


保健室の前で何か喚いている玲子を置き去りにして。


歴史の自習中の教室に立ち寄り、何事かと目を丸めるクラスメイトの視線を縫って、


慌ただしく荷物を引っ掴むように手にし、休む間もなく校舎を後にした。


校門を抜け、


色付き始めた、銀杏並木の坂を抜け、


家に帰るはずなのに、なぜかいつものバス停を通り過ぎ、


しっかりと手を繋いだまま、晃一郎は有無を言わせず、スタスタと早足で歩いて行く。


でも悲しいかな、コンパスの差は如何ともしがたく、


晃一郎の早歩きは、殆ど優花の小走り状態。


学校を出てまだ数分なのに、既に息が上がって苦しい。


「晃ちゃんっ、ちょっと待って。なんで、こんなに急いでるのっ?」


じゃなくて、


「どこへ行くのよ、バス停はあそこっ!」


ぜえはあ肩で息をしながら、


それでもなんとか引かれる力に逆らってぐっと足を止め、通り過ぎたバス停を『ぴっ!』っと指差す。