「俺は、ただ、こいつが、幸せであればいい、と思ってるだけだ。でも、その場所は、ここじゃない。あんただって見ただろう? 最初にこいつに会ったときに、こいつがどんな世界で生きてきたのか」


「うん。まあね……」


玲子は、うなずく。


研究所の病室で初めて優花に会ったとき、その記憶の中に鮮やかに見えた、温かいビジョン。


超能力などなく、


もちろん、ESP犯罪で命を落とすこともなく、


晃一郎や死んだ優花のように、その能力ゆえに、幼いころから政府の飼い犬にされることもない。


SA特別国家公務員などと、たいそうな肩書きを与えられてはいるが、わずかばかりの権利を守るために、重い足かせをかけられているようなものだ。


命令があれば、どんな危険な仕事もこなさなければいけない。


優花のように、


その命を落とすことになっても。


優花の記憶に垣間見た、あの、平和で、安全な日常。


優花は、あの世界に生きるべき人間だ。