【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


ゆうに百七十センチはあるだろう、すらりとした体躯。


でも、出るところは出てます、な、ナイスなボディプロポーション。


理知的な光を宿す、二重の切れ長の瞳の色は、クール・ブルー。


ややくせのある長い髪は、鮮やかな栗色だ。


白衣にメガネに髪型アップ、


ではなく、黒いボディスーツに、黒いライフジャケット。


アイテムは違うが、この人物は間違いなく、


「黒田……マリア?」


呆然と落とした優花のつぶやきに、


黒田マリアは、形の良い赤い唇を、にいっと笑いの形に吊り上げる。


「はい、ご名答。エレベーターの女、黒田マリアでーす」


ふざけた口調が、空々しく響く。


笑った表情を作ってはいるが、蛇を思わせる粘着質の視線を向けるその目は、欠片も笑っていない。


この人は、表情や語り口通りの、明るく気さくな人物じゃない、


そう装った裏側で、冷たく淀んだ腐水が、あふれている。