【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「あらあら、おいてけぼりなんて、酷い彼氏ね」


すぐ近く、


それも耳元で、


ささやくような言葉が落とされ、優花は、「ひっ」っと、声にならない悲鳴を上げて、その場に尻餅をついてしまった。


腰が抜けるとよく言うが、まさに、それだ。


必死で、立ち上がろうとするが、手足に力が入らない。


「だ、だ、だ、だれっ!?」


幽霊だったら、泣く。


絶対に、泣いてやるっ!


精神が均衡を保とうと、あらぬ方へ、思考が逃げる。


「さあ、私は、誰でしょう?」


大人の女性特有の、落ち着きと艶やかさを兼ね備えた、柔らかな声音には、聞き覚えがあった。


そう、ごく最近、聞いた声だ。


恐々と、上げた視線の先には、見覚えのある人物が立っていた。