【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


今の今まで、目の前にその背中があったのに、どうして?


「晃……ちゃん?」


心細さで、名を呼ぶ声が、震えてしまう。


きっと、死角になっている場所に入り込んでいるんだ。


呼んだら、すぐに返事をしてくれる。


そう自分に言い聞かせ、


かすかな期待をこめて、もう一度声を上げる。


「晃ちゃん、どこに居るの?」


だが、応えはない。


シンと、静まり返ったガランとした空間が、優花の震える声を吸い込むように消していく。


――や、やだっ。


どこに行ったの?


ぐるりと、周囲を見渡し、必死でその姿を探すが、どこにも見当たらない。


「晃ちゃんっ!」


泣きそうになりながら、上げた叫び声に、


クスクスと、楽しげな笑い声が重なった。