【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


玲子は玲子で、


「え? イレギュラーの摘発!? 


ここに、イレギュラーがいるんですか!? 


誰です!?  


どこにいるんですか!?」と、


野次馬根性丸出しの、ちょっとネジの飛んだOLを演じ、こちらもまた、更なる追求の手を逃れた。


リュウに至っては、何を聞かれても、例の『嘘なんか絶対つきそうもない』エンジェルスマイル全開で、知らぬ存ぜずを通し、挙句の果てには、


「通報があるたびに、現場へ急行するのは大変ですよね。ええ、分かります。ボクも公僕の端くれですから。心中お察しします」


などと、巧みに会話の流れをカウンセリングパターンに誘導して、とうとう、担当官を煙に巻いてしまった。


そこで、公安の至った結論は、『誤通報』。


リュウが、担当官から漏れ聞いた情報を整理してみると、どうやら、通報は、匿名の女性からのもので、


内容も『今朝、エレベーターの中でイレギュラー体と思われる女性を見かけけた。これこれこういう人物が同乗していた」というような、大雑把なものだったようだ。


これで、リュウの、黒田マリアのリーク説は、限りなく濃厚になった。


黒田マリアの超能力が弱く、イレギュラーであることしか読み取れなかったと考えるのが順当だろう。


だがもしも、すべてを読んでいたにも関わらず、リークする情報を選んでいたとすれば――。


考え過ぎかもしれない。


それでも、


拍子抜けするくらいの、あっけない幕切れに、リュウは安堵するよりも、むしろ、得体のしれない不安を感じていた。