【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「誰にもって、晃にもかい?」


こういう問答に慣れているのか、


リュウは、さして動揺するでもなく、穏やかなトーンの声で質問を返してきた。


「はい、晃ちゃんにも、玲子ちゃんにも、誰にも言わないで欲しいんです。お願いしますっ!」


優花は、ぺこり! と頭を下げる。


下げたまま、ドキドキと鼓動を高鳴らせ、その答えを待った。


優花の言葉の意味をじっくりと咀嚼するような、短い沈黙の後、


リュウは、穏やかだがはっきりと意思のこもった声で断言した。


「わかった。患者さんのプライベートは、必ず守るよ。君の許可が出るまでは、誰にも他言はしない」


優花は、弾かれたように、顔を上げる。


まっすぐに向けられている碧い瞳は、変わらずに穏やかで、優花の緊張はふうっと解けた。


この人は、嘘はつかない。


優花には、理屈ではなく、感覚的に、そう、信じられた。