【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


優花が両親の死で自分を責め、打ちひしがれ、壊れそうな心を抱えてどうする事も出来ずにいたとき、


晃一郎から、特別な言葉は、何もなかった。


ただ、変わらずに、いつも近くにいてくれた。


いつものように冗談を言って、からかって。


その変わらなさが、たまらなく嬉しかった。


だから、


だから、あの悲しみを乗り越えられたのだと、そう思う。


あの時にもらった、温もりのようなもの。


それを、少しでも返したい。


シンクの洗い桶に食器を浸けながら、優花は小さく頷くと、いつもの調子で晃一郎に言葉をかけた。


「晃ちゃん、食後はお茶がいい? それともコーヒー? 優花特製カフェ・オレも作っちゃうよ?」


そんな優花の気持ちを見透かしたように、


「じゃ、カフェ・オレ・プリーズ」


晃一郎は、そう言って、ふっと目元を和らげた。