優花が両親の死で自分を責め、打ちひしがれ、壊れそうな心を抱えてどうする事も出来ずにいたとき、
晃一郎から、特別な言葉は、何もなかった。
ただ、変わらずに、いつも近くにいてくれた。
いつものように冗談を言って、からかって。
その変わらなさが、たまらなく嬉しかった。
だから、
だから、あの悲しみを乗り越えられたのだと、そう思う。
あの時にもらった、温もりのようなもの。
それを、少しでも返したい。
シンクの洗い桶に食器を浸けながら、優花は小さく頷くと、いつもの調子で晃一郎に言葉をかけた。
「晃ちゃん、食後はお茶がいい? それともコーヒー? 優花特製カフェ・オレも作っちゃうよ?」
そんな優花の気持ちを見透かしたように、
「じゃ、カフェ・オレ・プリーズ」
晃一郎は、そう言って、ふっと目元を和らげた。



