【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「おはようございます、村瀬さん。いつもお世話様です」


玲子に笑顔で如才ない挨拶を返した後、


案の定、彼女は、身体をずらして優花を視界に捕らえると、質問を投げてきた。


「おはようございます。初めてお目にかかると思うんですけれど?」


「え、あ、あのっ」


まさか、直接声を掛けられるとは思っていなかった優花は、返答に窮して、しどろもどろになってしまう。


そんな優花の内心を知ってか知らずか、彼女はニコニコと質問を続けてくる。


「私は、黒田マリア。地下五階で、ESP遺伝子の研究をしています。あなたは、どちらのフロアにいらっしゃるの?」


「え、えっと、私は――」


地下二階で、潜伏生活中のイレギュラーです、


とは、間違っても言えない。


――ど、どうしようっ!


名前、名前、名前ーーーっ!


適当な名前を言えばすむことだが、そんな器用な真似ができるなら、こんなに動揺はしていない。