【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「今、俺は頭の中に、ある人物を思い描いている」


「うん」


優花は、コクリとうなづく。


「その人は、お前が、よく知っている人物だ」


チラリ、と


閉ざした瞳の奥の、薄暗かった視界の隅に、何か白い影が掠めた。


「う……ん?」


ほのかな、甘い花の香りが、フワリと鼻腔に届く。


――これって、確か、金木犀の匂い?


「その人は、女性だ」


抑揚のない、低い声音に導かれるかのように、その白い影が、ゆっくりと浮かび上がる。


サラリ、と


極上の銀糸が、薄闇に、淡く白い燐光を放つ。


それは、髪だ。


長く、美しい、銀色の髪。


腰に届くほど長い髪を揺らした、白いワンピースを身に纏った華奢な女性のシルエットが、徐々に像を結ぶ。


少女のような、柔らかな頬の稜線。


でも、それは、大人の女性のものだ。


淡く色づいた可憐な唇が、ゆっくりと言葉を発する。


『優花』


――え?


どこかで聞いた、ひどく身近に感じる、声。


それが、『自分の声』だと、気づいたその瞬間、


どん、と、


身体全体に重みを感じて、優花はハッと目を開けた。