【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


大人二人が並んで座るのがやっとの大きさの、キッチンカウンター・テーブルの上には、所狭しと、朝食のメニューが並べられた。


ホカホカと湯気を上げる、炊き立てのご飯は、つやつやと粒が立っていて、


豆腐とワカメの味噌汁も、香ばしいにおいを上げている。


焼き鮭も、程よい焼き加減で、


だし巻き卵も、色よく形よく、ふんわりと柔らかそうに仕上がっていた。


主役の肉じゃがときたら、味がじっくりと染み渡り、醤油と砂糖が織り成す絶妙のコンビネーションの賜物な、実に食欲中枢を刺激する、あの独特の甘じょっぱい良いにおいが、漂ってくる。


『日本人でよかった』


和食党の晃一郎は、しみじみと感じ入りながら、「いただきます」と、両手を合わせた。


まずは、味噌汁をゴクリと一口、口に含む。


濃すぎず、薄すぎず、


熱すぎず、冷めすぎず。


程よい出汁かげんの味噌汁は、薬味のネギが良い感じに味を引き締めていて、なかなかに美味い。


さて、次は――。


晃一郎は、そそくさと、肉じゃがの盛られた皿に箸を伸ばした。