【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「へぇ……」


部屋に一歩足を踏み入れた晃一郎は、目の前に広がる光景に、素直な驚きの声を上げた。


そこにあるはずの、リハビリ室や廊下と同じ、機能的だが無機質な白い空間は、まるっきり別のものに様変わりしていた。


もともとは、研究員用の仮眠施設として作られたその部屋を、晃一郎も何度か使用したことがあるが、


住む人間によって、部屋の雰囲気はこんなに変わるものなのかと、感心してしまう。


部屋は十畳ほどのワンルーム形式の、バス・トイレが付いている、シンプルな洋間だ。


入ってすぐ右側には、ダイニングテーブルと食卓を兼ねた、カウンター式の簡易キッチン。


部屋の中央部分に、ソファー・セット。


一番奥に、デスクとベッドスペース。


カーテン、クッション、ベッドとソファーカバー。


ファブリックは、パステルピンクと赤白のチェック柄の組み合わせで統一されていて、なんとなくキャンディの包み紙を連想させた。


左側の壁面はすべて作りつけの収納になっていて、衣類やTVなどのAV機器も収められている。


キッチン・カウンターの上には、ミニチュアサイズの観葉植物の寄せ植えが置かれていて、鉢の縁には、陶器製の二匹のシャムネコのカップルが、互いの尻尾でハートマークを形作りながら、頬を染めて寄り添うように座っていた。


白いツードアの冷蔵庫の扉には、てんとう虫の形のキッチン・タイマーを中心に、向日葵、チューリップ、薔薇といった、花の形のマグネットが、にぎやかに貼り付いている。


――まるで、季節感を無視した花畑みたいだな。


自然と、晃一郎の頬の筋肉は緩んだ。