『晃一郎』
目の前の少女によく似た、でも少し澄んだトーンの懐かしい呼び声が、そのけぶるような笑顔が、脳裏に鮮やかに蘇る。
優花と接するとき、ふとした瞬間に、こうして思い出してしまう、恋人の記憶。
甘く、そして苦い思い出が、晃一郎の胸の奥に、まだ癒えぬ鋭い痛みを走らせる。
忘れたくて、
でも、忘れたくなくて、
どうしようもない気持ちをもてあまして、仕事に逃げている。
ろくに休むこともせずに、睡眠もそこそこに。
まるで、自分を追い込むかのように、考えることから逃げている。
――女々しいことこの上ないな。
こんな自分の弱い側面を見たら、
きっと、目の前のこの少女は、幻滅するだろう。
「狭い部屋だけど、ようこそ、ウエルカム!」
「あ、ああ……」
満面の笑みに迎え入れられて、晃一郎は、優花の小さな城に足を踏み入れた。



