【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「実は、鈴木博士に頼んで、コピーしてもらっちゃった」


「おまっ……博士にコピー取らせたのか?」


『人の尊敬する上司に雑用コピーを言いつける十五歳』に絶句する晃一郎を楽しげに見上げ、優花は、『えへへん!』と、胸を張る。


「今も大事に取ってあるんだ。それで、たまに眺めて、笑かしてもらってまーす」


「あっそ。お好きにどうぞー」


自分に絵のセンスなど皆無だ、と自覚しないでもない晃一郎は、あきらめたように肩をすくめた。


口では、ついつい憎まれ口をきいてしまうが、そんな些細なことで、優花の心が和むのなら、別にそれでいい。


素直にそう言ってやれば、優花はもっと喜ぶのだろうが、晃一郎にはそんな器用な真似は、ぜったいできない。


『アンタも、たいがい不器用だねー。好きでもない女には、ヘラヘラ如才なく振舞えるのに、何やってんだか』


玲子には、そう言って呆れられるが、いまさら自分の性格を変えることなどできない。


優花の世界の晃一郎を不器用だ、などと言えた義理ではないのは、自分が一番よく知っていた。


――我ながら、よく、あいつが愛想をつかすでもなく一緒にいてくれたのか不思議だな……。