【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


リハビリ室から、無機質な白い廊下を歩いて一分弱。


地下二階の同じフロアの一角にある自分の仮住まいに、晃一郎と並んで足を運びながら、優花は、あることを思い出して、くすくすと笑い出した。


「なんだよ?」


優花の笑いに、自分へのからかいの成分が含まれているのを察知したのか、晃一郎は不審げに眉を寄せる。


「うん、ちょっと、思い出しちゃって」


「何を?」


「御堂画伯の、ナノマシンちゃん画」


クスクス、


さらに笑い続ける優花の様子に、晃一郎はヒクヒクと頬を引きつらせる。


「お前なー。そういうクダラナイことは、さっさと忘れろ。ただでさえ少ない記憶容量が、ますます狭くなるぞ」


「だって、可愛かったんだもん、あれ」


博士の説明が理解できないで困っている優花を見かねた晃一郎が、白衣の胸ポケットから引き抜いたボールペンで、おもむろにカルテの裏に描いた、ナノマシンの絵。


優花には、あれは、かなりツボだった。