【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


研究所のフロアは全部で五階、


ひとつの研究テーマに一つのフロアが割り当てられていて、この二階部分は所長である鈴木博士の専用フロアになっている。


彼の研究テーマは、『ナノマシンの医療転用』で、


ナノマシンとは、細菌や細胞よりもひとまわり小さいウイルスサイズの機械のことを言い、


通常、工業部門、主に精密機械の部品製作に利用されている。


このナノマシンを、医療の分野で生かそうと言うのが、鈴木博士の、ひいては御堂晃一郎の研究テーマでもある。


優花の命を直接的に救ったのが、このナノマシンを使った試験薬だった。


目覚めた当初、博士からこの新薬の効能と予想される副作用について説明されたのだが、はっきり言って優花には、ちんぷんかんぷんだった。


そもそも、優花は『ナノマシン』という概念すら知らなかったし、優花のいた世界では、その概念も実用化には程遠い、漫画や小説の中にだけ存在する想像の産物に過ぎなかった。


博士の説明に、『はい?』とか『えーーと?』とか、


ひたすら目を白黒させながら、顔に大きな疑問符を浮かべるばかりの優花に、助け舟を出したのは、晃一郎だった。