【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


最初に目覚めた病室とは違う、職員用の個室に住まわせてもらっている優花は、このごろリハビリを兼ねて、自炊を始めていた。


外出はできないので、材料は、玲子が調達して届けてくれている。


玲子は、情報処理業務のスペシャリストで、研究所の業務委託を受けているため準・公務員扱になっている。


そのため、研究所の出入りが自由に出来るのだ。


週末には、良く泊り込んで、二人でパジャマパーティという名の女子会を、夜っぴきで楽しんだりしている。


陽の光の差し込まない地下二階での潜伏生活。


普通なら、精神的にまいってしまいそうなこの過酷な状況でも、こうして優花が元気でいられるのは、玲子の存在はかなり大きかった。


「今日は、二人分作ってあるんだ。メニューは、えーと、炊きたてご飯とお豆腐とワカメのお味噌汁と、昨日作ったおばあちゃん仕込の肉じゃがと、出し巻卵と、焼き鮭、なんだけど……」


不意を突かれたぽかんとした表情のままだった晃一郎の頬の筋肉が、優花の放ったある単語に微妙に反応を示した。


「肉、じゃが……?」


「うん。肉じゃが。昨夜作った残りだから、いい感じに味が染みてて美味しいと思うんだ」


えっへん!


と、胸を張る優花の視線のさきで、晃一郎が、ごくりと喉を鳴らす。


――やった、いい反応!


おばあちゃん、ありがとうーっ!


優花は、如月家秘伝の肉じゃがの味を仕込んでおいてくれた祖母に礼を言い、


心の中で思わずガッツポーズを作った。