【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


晃一郎は、外来患者も多く訪れる地上部分の病院施設で外科の医師として働く一方で、地下部分の研究施設で研究員としても働くという二足のわらじを履く、優花から見ればかなりハードな生活をしていた。


だが、本人はケロリとしたもので、こうしてに朝の七時から八時の一時間は、必ず優花のリハビリに時間を裂くという、スーパーマンぶりを発揮している。


――たしか、午前十時からは、病院勤務で、午後はたまにだけど、手術が入る、って言ってたよね?


手術が入らない午後は、夜遅くまで鈴木博士のところで研究の手伝い、


で、今は、午前八時。


出勤前のいつもの、私のリハビリ指導、


すごいって言うか、疲れないのかな?


優花は、使い終わったリハビリ器具をせっせと片付けている晃一郎を手伝いながら、その表情を、チラリと盗み見た。


ふんふんふん♪ と、


鼻歌交じりで、朝から絶好調そうなその横顔には、疲れの色は見えない。


――でも、やっぱり、疲れてない、わけないよね?


とてもありがたいのだが、優花にしてみれば、そのむちゃっぷりで、身体を壊したりしないか、少しばかり心配になる。


俺様でセクハラ大魔王でも、やっぱり、大事な幼なじみには、変わりがない。


だいいち、この人は、命の恩人なのだ。


そして、なんだかんだと言いながらも、この世界で一番頼れる存在でもある。


大事にしすぎても、バチはあたらない。


――うん、そうだ。


いつも、からかいモード全開でこられるため、ついつい礼を言えないでいる優花は、今日こそは、ある提案を言ってみようと小さな決意を口にした。