【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~



『もちもちでちょっと癖になるのよねー』


とは、三日と日を空けず顔を出す玲子の言だが、晃一郎がどう思っているのかは、さすがに聞いたことが無いから分からない。


「リハビリの後には、水分補給」


ほら、と、


愉快気な笑い声と共に、ほてった頬にあてがわれた、冷たいペットボトルの感触が心地良い。


この世界にパラレル・スリップして、およそ二ヶ月。


目覚めてからは、一ヶ月あまり。


暦の上ではもう九月。


既に秋に突入しているが、残暑はまだ厳しい。


もっとも、まだ、外出の許可が下りず、完璧にエアーコンディショニングされた研究所の中から出たことがない優花には、あまり、季節の移ろいは感じることが出来ない。


優秀な医師でもあるという晃一郎のかなりスパルタな指導の下、


リハビリの甲斐あって、大分動くようになった身体を『よいしょ』と引き起こし、優花は、おどけたように晃一郎の顔を覗き込む。