――え?


まるで、壊れ物に触れるかのように、密やかに。


頬に伝わる、少し冷たく感じる長い指の感触が、優花の中の『何か』のスイッチを押す。


クラリ、と視界が傾いだ。


身体に纏わりつく、甘い花の香りが、にわかにその濃度を増す。


――あれ?


やだ、何これ?


貧血?


クラクラと、揺れる世界。


「ごめんな……」


グルグル巡るのは、呪文のように紡がれた言葉と、頬に触れた指の感触。


そして、脳裏に浮かぶ、一面の鮮やかなオレンジの色彩。


それはまるで、沈み行く夕日を抱く空のような、どこか切ない、黄昏の色。


すうっと、吸い込まれるように、意識が闇に落ちていく。


足元から力が抜けて、カクンと膝が前に落ちる。


その華奢な身体が床に倒れこむ間際、晃一郎が優花を抱きとめた。


「晃……ちゃ……?」


もう時間がないのだと、


そう呟く、晃一郎の声は、既に、深い眠りに落ちた優花には届かなかった――。