「――それで、全部か?」


晃一郎は、優花の目を見据えて、静かに問うた。


声音は、静かだが、


言外に、『もっとあるはずだ思い出せ!』と言うオーラが滲み出している。


だが、いくら考えても、思い出せないものは、答えられない。


「う、うん。たぶん、全部だと思うけど……」


もごもごもごと、尻つぼみに消える優花の返事の後に、痛いくらいの沈黙が落ちた。


何かを、迷うように揺れていた自分を見つめる晃一郎の茶色の瞳が、すうっと深い色味を帯びたように見えて、優花は、息を飲んだ。


ドキン、と鼓動が大きく跳ねる。


この人は、本当に、自分の知っている、『御堂晃一郎』なのだろうか?


普通に考えれば、わくはずのない疑念が、優花の鼓動を更に早めていく。


「晃、ちゃん?」


不安になって、優花は、良く知っているはずの、幼なじみの名を呼ぶ。


晃一郎の表情が、痛みに耐えるかのように、わずかに曇った。


だが、それを振り切るように、ぎゅっと目を瞑り再び開けたとき、その瞳に宿っていた迷いの成分は、綺麗に払拭されていた。


その変化を、息も出来ずに見守っていた優花の頬に、晃一郎は、静かに左腕を伸ばすと、そっと手のひらで撫でた。