【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「たいしたことなくて良かったよ。でも、本当に気をつけなよ優花。階段の転落事故って、意外と死亡率高かったりするからね」


「う、うん、気をつける……」


ありがたい親友の忠告に素直に頷きかけた優花は、ある重大なことを思い出して、ギクリと固まった。


背中を、嫌な汗が伝い落ちる。


そうだ。


確かに急いでいたし、じゃっかん、いや、かなり注意力は散漫な状態だったかもしれないが、けっして自分で足を踏み外したわけじゃない。


「押された……の」


「え――?」


「誰かに、背中を押されたの」


「ええっ、何、ソレ!?」


玲子が驚くのも無理はない。


自分で足を踏み外したならただのドジですむが、誰かに押されたとなると傷害事件、立派な犯罪だ。


「本当なのか?」


晃一郎に、真剣な眼差しで問われた優花は、コクリと頷く。


「本当だよ、こんなことで嘘なんかつかないよ、私」


不安げな優花の声を掻き消すように、授業開始のチャイムが鳴り響いた。