【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


まさかの珍事、もとい惨事に、さすがに顔色を無くした玲子とリュウが慌てて駆け寄ってくる。


「ちょっ、ちょっと、あんたたち、大丈夫なのっ!?」


無闇に助け起こしてもいいものか、迷ったように手を彷徨わせる玲子の切迫した問いに、優花に抱きつかれたまま、クッション代わりに下敷きにされている晃一郎は、眉間に皺を刻んで、低く呻いた。


「……大丈夫なわけ、あるかっつうの。見りゃあ、わかるだろうがっ。ってか、重いぞ優花、いい加減にどいてくれ!」


――え?


あ、ああああっ!?


「ご、ごめんっ、晃ちゃん!」


しっかり晃一郎の胸元に抱きついたままだった優花は、己の行動にやっと気付いたように、瞬間湯沸し機並みに顔を上気させつつ、泡を食って自分の身体を引き剥がした。


その急激な動きのせいか、こめかみにズキンと鋭い痛みが走り、思わず呻き声が、優花の口を突いて出る。


「った……」


「頭が痛いの優花!?」


「どこかにぶつけたりしましたか?」


心配げにに問う玲子とリュウに、優花は、「ううん。平気、大丈夫だよ」と、どうにか笑顔を作ってみせる。


ぶつけてはいない、


はずだと思う。


晃一郎がクッションになってくれたおかげで、ほとんど、実害はないに等しい。


むしろ、心配なのは、下敷きにされた晃一郎の方だ。