【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


時間には厳しいが、他のことには比較的融通がきく担当教師のフリーな性格を反映して、音楽の授業は、基本的に席順が決まっていない。


だから、教室に早く着いた順番に、生徒は自分の好きな席に座っていくことになる。


教師からなるべく離れた後ろの席から座りたいのが人情で、恐らくは最後に到着するはずの優花たちは、おのずと最前列の真ん中辺りにしか座れない。


最前列は、内職もしにくいし、体育のあとの疲れを癒す居眠りも出来ない。


常ならばため息モノの出遅れだが、今の優花には、救いの手に感じられた。


――よし。


ここはいっそ、最前列でしっかり授業を受けよう!


今度こそは、ぜったい居眠りしたりしないぞ!


心のなかで自分に気合いを入れ、階段を降りようと、足を一歩踏み出したときだった。


トン――!


と、背中が、強い力で『誰かに押された』。


否、『突き飛ばされた』。


――えっ!?


っと、声を発する暇もなく、体がフワリと、宙に投げ出される。