【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「立ったまま眠ってるのか、お前は?」


「ふぎゃっ!?」


「なに、ボーっとしてるんだよ。音楽の授業、始まっちまうぞ!」


「いだい、いだいっ、いだいってば。晃ひゃん、ほっぺ伸びるー!」


これは、現実だ。


絶対、間違いなく、現実以外の何ものでもない。


夢で、こんなに、ほっぺたが痛くなるはずはない!


「優花ー、御堂ー、時間がないっつうのに、何、じゃれついてんのよ? 急がないと遅れるよ!」


先に教室を出た玲子が、『おいでおいで』と、階段の降り口で手を振っている。


その声に急かされるように、優花と晃一郎は、やっと移動を再開した。


せわしない。


でも、この際、優花にはその移動のせわしなさが、ありがたかったりする。


余計なことを考えずにすむし、まさかいくらなんでもこの状態で眠くなったりはしないだろうから。


むしろ、音楽室に着いてから、授業中の方が危険度が高い。


心地良い音楽をBGMに『ねんねんころりよ』と、うっかり眠りこけてしまいそうだ。


『次に見る夢はヤバイ』


優花の勘が、そう告げていた。