「……ポチ……?」
細い記憶の糸を辿るように、優花は、その名をもう一度つぶやいた。
瞬間、鼻腔をくすぐったのは、そこに漂うはずのない、むせ返るような金木犀の花の甘い香り。
その香りに引き寄せられるように浮かんだのは、まあるいフォルムの、白い綿毛のような、小型犬の愛らしい姿。
はちきれんばかりに振られた、小ぶりの尻尾。
足元に纏わりつく、柔らかな体毛と、少し高めの体温。
『ゆーか。あそぼう、ゆーーかっ!』
舌ったらずの、可愛らしいハイトーンの声が、自分を呼んでいる。
そして、込み上げるのは、紛れもなく『愛おしさ』。
空中を乱舞するのは、大振りの白い羽根――?
――なに このビジョン。
こんな犬、知らない。
知らないはず、なのに。
臭覚から始まり、視覚、触覚、そして聴覚。
味覚以外の感覚をフルに刺激され、まるで『見せられている』かのような、鮮やかすぎるビジョンに、優花は、混乱の極地で身動きできない。



