【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~




「女の子の眉間に縦ジワは、可愛くないぞー」


先を歩き出した晃一郎の背を追いかけるように、優花は慌てて足を踏み出した。


「べ、別に、構わないから、ほっといてよ! それより、もう、頭、撫でたりしないでよね! 私は『ポチ』じゃないんだから!」


って、あれ?


『ポチ』って……?


無意識に発したその名前が、一般的に犬に付けられるものだとは認識している。


が、今まで優花は『ポチ』という名の犬を飼ったことはなく、知り合いの飼い犬にも該当するものはない。


どうして、その名が心に浮かんだのかが分からない優花は、自分の発言の不可解さに改めて気付き、思わず足を止めた。


そんな優花の様子を、やはり足を止めた晃一郎が、じっと見つめている。


その真っ直ぐな眼差しに視線がつかまった優花は、身動きができなくなってしまった。


「ポチって?」


晃一郎の、静かな、抑揚の無い声音が、人気がなくなり閑散とした廊下に、吸い込まれるように溶けていく。