【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


「カタカナですか?」


「あだなよ、あだな、ニックネーム! 由来は後でじっくりお姉さんが、教えてあ・げ・るから、とにかく急ごう。音楽のコンちゃん、時間には厳しいからね」


ほら!


と玲子に背を押された優花とリュウは、半分残っている移動を再開すべく、廊下へと足を向けた。


そこで、ふと、優花は、晃一郎がいないことに気付き、足を止めた。


あれ?


そういえば、晃ちゃん?


『エロカマキリ』の話題など、率先してのってきそうなものなのに、無反応だったし何をしているの?


既に、他の生徒たちは出払って閑散とした教室内に、ゆっくりと視線をめぐらせる。


あ、いた。


開いた窓から吹き込んでくる、今は心地良く感じる秋風に弄られる白いカーテン。


その影に佇むように、外に視線を走らせる晃一郎の姿に、優花は小首を傾げた。


窓の向こう側はB棟との間に小さな中庭があるだけで、特に目を引くものは無いはずだけど。


「もう行くよ、晃ちゃん?」


「あ、ああ、すぐに行く」


ゆっくりと歩み寄ってくる晃一郎の、ニコニコと浮かべた笑顔が、なんとなくうそ臭い。