【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


文句を言いつつも一度試合が始まれば、スポーツ万能選手の晃一郎は、目立った活躍を見せていた。


相手コートに華麗なるジャンピング・サーブを決めた晃一郎の運動神経が、少しばかり羨ましい。


運動は嫌いではないが、決して得意とは言えない優花だった。


「ゆーか。聞いてもいいですか?」


ひとしきり漫才談義に花を咲かせたリュウが、逡巡するような短い沈黙の後、静かに問いかけてきた。


まっすぐ向けられる眼差しは柔らかいが、真剣そのものだ。


心の奥底を見透かされそうな澄んだ瞳に見つめられて、優花はドギマギしてしまう。


な、なんだろう?


優花は、思わず背筋をピンと伸ばして居住いをただし、リュウに向き直った。


「私に答えられることなら、いいけど……」


担任の鈴木先生から案内役を頼まれていると言う義務感からではなく、素直な厚意から、優花は自分の出来る限りリュウの役に立ちたいと、そう考えていた。