【黄昏の記憶】~ファースト・キスは封印の味~


もう十月だと言うのに、背中にはぐっしょりと寝汗をかいている。


頬に残る涙の後を両手で拭い取り、右手のひらを目の前でそっと開いて見つめてみれば、そこに残るのは繋いだ手の感触。


あのぬくもりが残っている気がして、ギュッと右手を握りしめた。


――また、あの夢だ。


ここ数年、何度となく繰り返し見てきた、『誰かと逃げる』夢。


最初は、まるで映画のワンシーンを繋ぎ合わせたような、脈絡のない映像の連なりにすぎなかった。


例えるなら、そう、


祖父が昔、優花が子供のころに見せてくれた秘蔵のサイレント映画のような、まったく音の無いただのモノクロ・ビジョン。


それがやがて色を持ち、音を纏い、感触を伴うようになった。


でも、こんなにリアルなのは、初めてだ。